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- 1 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 20:46:07.572 ID:pyRicHye0
- 最近はNシステムとかいう、車のナンバーを自動で読み取る装置が至る所に設置されているらしい。
だから私は、自家用車に乗るのは避けて自転車を使う事にした。
自分の車で目的地に向かえば、事件発覚後、もしも私の車の動向を捜査された時、私が犯人だということは簡単にバレてしまう。それは避けなければならない。
途中、信号待ちしながら、前カゴに入れたバッグの中身を確かめた。
手袋をしたままの手をバッグの中に突っ込むと、ハンマーの硬い感触があった。私は今日、このハンマーで彼を56す。
彼の恋人は私だった筈なのに、ずっと二人でいられると思っていたのに、彼はあいつと婚約してしまった。
何ヶ月も前から、あいつが彼に色目を使っていることはわかっていた。でも、彼があいつに靡く事はないと、私はそう思って安心していた。
なのに、それなのに、彼は私を捨ててあいつを選んだんだ。 - 2 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 20:47:07.531 ID:pyRicHye0
- 婚約したのは二週間前らしい。そして、そのずっと前から、私に黙ってあいつと付き合っていたんだ。
確かに最近、彼の態度には違和感があった。
逢いたいと言っても断られることが増えたし、私を見つめる瞳には申し訳なさそうな、隠し事でもありそうな怯えの感情があった。
付き合い始めた頃から、彼はいつも堂々としていて、私は自信に溢れた精悍な彼の姿しか見た事がない。
けれど最近の彼は、行き場をなくした迷子のように力の無い表情をしている事が多かったのだ。先週、安っぽいホテルの一室で私は彼に、何か心配事があるなら言ってほしい、と伝えた。
しかし、恋人の力になりたいという純粋な想いは、彼の、「婚約者ができた」という言葉に撃ち砕かれた。
彼は伏し目がちに、叱られた子供みたいな態度で萎縮していた。「違うんだ、婚約といっても、殆ど愛の無い婚約なんだ」
- 3 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 20:48:01.176 ID:pyRicHye0
- 彼の言葉はその場凌ぎの言い訳としか思えなかったし、『殆ど』という部分が気になった。
殆ど無い、という事は、逆に言えば少しはあるということだ。あいつを、少しは愛しているということだ。
それに、愛があるかどうかなんて重要な問題じゃない。婚約したということが、あいつと結婚するということが問題なんだ。
私は、彼との結婚を望んだことはない。彼にも、結婚願望なんかないと思っていたのに、よりにもよってあんな女に彼を取られるなんて、我慢がならなかった。先週の彼の告白を思い返しているうちに、目的のホテルに着いた。
私は自転車を路上駐車して、ホテルの側面にある小径に回り込んだ。馬鹿正直にエントランスから入るような真似はしない。
ホテルの側面には、外から歩いて地下駐車場に入れる階段があった。
階段を降りた先には扉が二つある。一方は、地下駐車場へ行く扉。もう一方は、ホテル内部の非常階段へ続く扉だ。
チェックインは彼が既に済ませているので、私がフロントに行く必要はない。非常階段を使えば、防犯カメラに映らないルートで部屋まで行けることは把握していた。
階段にもいくつか防犯カメラらしきものは設置されているが、これは全てダミーカメラだ。
このホテルは、宿泊料が安い事だけがウリの貧相なホテルだった。恋人との逢瀬に使うようなホテルではないが、私と彼が逢う時はいつもここを利用していた。
もっと高級なホテルに泊まりたいと思ったことがないわけではないが、今はこのセキュリティ意識の低い安ホテルに感謝している。
彼の待つ部屋に着いた私は、コンコン、と扉をノックした。「やあ、待ってたよ」
扉を開けて迎え入れる彼の表情は、最近には珍しいとびきりの笑顔だった。
- 4 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 20:48:54.648 ID:pyRicHye0
- 先週、婚約という隠し事を告白した彼は、「これからも君との関係は続けていきたい」とムシのいいことを言った。
私は、冗談じゃない、馬鹿にしているにも程がある、と反感を覚えた。
しかし、その内心を態度や言葉には出さず、「じゃあこれからは、私は貴方の愛人だね」と言って微笑んであげた。
彼は心の底から安堵したように嘆息し、私をそっと抱きしめたが、そのとき既に私は、彼を56す決意を固めていた。今日も、安ホテルの貧相な調度品達が私を迎えてくれた。いつもは気にならないその安っぽさが、彼が私に向ける愛情の浅さを表している気がして不愉快になる。
バッグを小さな冷蔵庫の上に置いて、冷蔵庫から缶ビールをひとつ取り出した。
この冷蔵庫の中身は、味の薄いビールだけだ。
部屋に備え付けられた四つ脚テーブルの、ドアに近い側の席に缶ビールを置く。そして私はその対面の椅子に腰掛けた。
彼も椅子に座り、私が置いてあげたビールを手に取った。プルタブを引いた時のカシュッという音が、酷く耳障りだった。「君は、飲まないのかい?」彼が訊く。
私は無言で、首肯だけで応えた。
最後の、審判の時だった。
私は彼に、どうしてあの女と婚約したのかを訊ねた。
彼は苦虫を噛み潰したような顔になる。その話は納得したんじゃなかったのか、とでも言いたそうだ。「それは当然、病院長の椅子に座る為さ。わかるだろう? 慈愛九条グループは親族経営だ。九条院長の娘である彼女と結婚すれば、僕は次期院長の有力候補になる」
病院長の椅子、とやらは私よりも魅力的なのか。彼は国分寺市で一番腕が良いと評判の外科医だ。それでいいじゃないかと思う。
出世なんかしなくても、現場でバリバリ働いている彼が好きだった。「婚約を解消する気は無い?」
「……無いよ。今さら婚約解消なんかしたら、次期院長候補どころの話じゃない。今の職場にすら居られなくなる」 - 5 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 20:49:45.319 ID:pyRicHye0
- 最後のチャンスを、彼は不意にした。
私は椅子から立ち上がる。私がこの椅子に座ることはもう二度と無いし、彼が病院長の椅子とやらに座ることも無い。
彼は、今ここで死ぬ。私が、56す。「今日は、もう帰るのかい?」
「ビールを取りに行くだけ。やっぱり、私も飲もうかなって」彼は、「そう」と呟いてビールを一口飲んだ。
私は、彼の背後にある小さな冷蔵庫に向かって歩く。そして、冷蔵庫の上に置いたバッグから、ハンマーを取り出した。
ハンマーを後ろ手に隠して、彼の背後から足音を消して近づいていく。
彼は、私が凶器を持っているなどとは微塵も思っていないのか、全く振り向く気配がない。
あと一歩踏み出せば、ハンマーが届く間合いというところで、私は足を止めた。
心の中で、さようなら、貴也さん、と呟く。
私は、ダンッと勢いよく踏み出して、ハンマーを水平に振り抜く。
彼の無防備な後頭部に硬いハンマーが当たり、骨が砕けるような鈍い音が響いた。
振り抜いたハンマーは手からすっぽ抜けて、部屋の隅に飛んでいった。指紋が残らないように手袋をしていた所為だ。この手袋は防寒用で、滑り止めなどは付いていない。
椅子からどさりと崩れ落ちた彼は、くぐもった声で呻いた。
彼は激痛と困惑で意識が朦朧としているのか、意味の掴めない言葉を零しながら、うつ伏せの状態で、死にかけのナメクジのようにズルズルとドアの方へ這いずっていく。
どうやら、一撃では殺しきれなかったようだ。
私はあまり体格が良くないし、子供の頃からスポーツなども殆どしてこなかったので、とても非力だ。
流石にハンマーを使えば一撃で殺せると思っていたのだが、うまくいかないものだ。
床を這いずる無様な彼の姿をこれ以上見ていたくない。すぐに楽にしてあげよう。
一瞬、部屋の隅に転がっているハンマーを取りに行こうかと思った。しかし、足元の彼は既に虫の息だ。これなら、ハンマーはもう必要ない。
私は彼の傍に膝をつき、首からネクタイを外した。
ネクタイを彼の首に巻き付けて、全力で絞めつける。
彼は首に巻き付くネクタイをなんとか解こうと必死に抵抗して、自身の首を爪で引っ掻く。
非力な私とはいえ、瀕死である彼の腕力には優っている。
数十秒程で彼の腕は床に、力無くだらりと落ちたが、息の根を完全に止める為に、その後も数分間、私はネクタイを持つ手に力を込めた。最後にもう一度、今度は言葉に出して、「さようなら、貴也さん」と呟いた。
- 6 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:06:58.595 ID:pyRicHye0
- ボクの一日は、爽やかな目覚めと共に始まる。
中世の王侯貴族が使用していた物よりも、さらに豪華絢爛なベッドで目を覚ましたボクは、上半身を起こし、両腕を広げて深呼吸した。
ベッドの天蓋から垂れ下がるカーテンを引き、ダイヤが散りばめられた壁掛け時計を見れば、時刻は午前六時半。
さあ、さっさと起きて準備をしないと、仕事に遅刻してしまう。ボクはベッドから立ち上がり、ふかふかのペルシャ絨毯の上を滑るように歩いてウォークインクローゼットに向かう。
クローゼットには、アルマーニやバーバリーやグッチなんかのスーツが何十着と並んでいる。
ど〜れ〜に〜し〜よ〜か〜なぁと歌いながら、その中の一着を適当に選んだ。まあ、別にどれでもいいのだ。
しがない地方公務員たるボクが着ているスーツが、たとえアルマーニだろうがなんだろうが、職場の同僚たちは気にしない。
というか、アイツらにはアルマーニと、量販店で売っているセール品の区別がつかない。
だからどうせ、どのスーツを着たって同じなのだ。
ボクはバーバリーロンドンのシックなスーツに身を包み、ジョルジオアルマーニの伊達眼鏡を掛けて部屋を出た。
ドアの向こうには、クラシカルなメイド服を着た、細身で長身の女性が佇んでいた。「おはようございます、れーさま」
「ああ、おはよう」 - 7 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:07:57.532 ID:pyRicHye0
- ボクの一日は、爽やかな目覚めと共に始まる。
中世の王侯貴族が使用していた物よりも、さらに豪華絢爛なベッドで目を覚ましたボクは、上半身を起こし、両腕を広げて深呼吸した。
ベッドの天蓋から垂れ下がるカーテンを引き、ダイヤが散りばめられた壁掛け時計を見れば、時刻は午前六時半。
さあ、さっさと起きて準備をしないと、仕事に遅刻してしまう。ボクはベッドから立ち上がり、ふかふかのペルシャ絨毯の上を滑るように歩いてウォークインクローゼットに向かう。
クローゼットには、アルマーニやバーバリーやグッチなんかのスーツが何十着と並んでいる。
ど〜れ〜に〜し〜よ〜か〜なぁと歌いながら、その中の一着を適当に選んだ。まあ、別にどれでもいいのだ。
しがない地方公務員たるボクが着ているスーツが、たとえアルマーニだろうがなんだろうが、職場の同僚たちは気にしない。
というか、アイツらにはアルマーニと、量販店で売っているセール品の区別がつかない。
だからどうせ、どのスーツを着たって同じなのだ。
ボクはバーバリーロンドンのシックなスーツに身を包み、ジョルジオアルマーニの伊達眼鏡を掛けて部屋を出た。
ドアの向こうには、クラシカルなメイド服を着た、細身で長身の女性が佇んでいた。「おはようございます、れーさま」
「ああ、おはよう」 - 8 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:08:58.250 ID:pyRicHye0
- ボク、宝生麗を『れーさま』などという気が抜けた発音で呼ぶこの女は、ウチで雇っているメイドの影山だ。
しがない地方公務員の家に、何故メイドがいるのかというと、別に大した理由はない。ボク自身は地方公務員だけど、ウチ、宝生家は、超絶お金持ちの家ってだけの話だ。
ボクの父は、我が国が世界に誇る超巨大複合企業組織『宝生グループ』の総帥である、宝生清太郎だ。
正直に言えばボクは、宝生グループの傘下企業にでも入社して、日々適当に働いていれば、その内どんどん出世していくという楽チン人生を歩むこともできるのだ。
しかし、ボクにはとある夢があったので、その夢を叶える為に、楽な道を放棄して地方公務員という道を選んだのだ。
全く、損な生き方をしていると、自分でも思う。洗面を済ませたあと、朝食を摂る。
だだっ広いダイニングに置かれた、全長二十メートルはあろうかという長テーブルの端っこ、俗に言うお誕生日席に腰掛けたボクは、影山が運んできたサンドイッチに舌鼓を打つ。
このサンドイッチは影山が作ったものだ。お金持ちだったらもっと良い物食べろよ、なんて言われるかもしれないが、サンドイッチに挟まれている具は、A5ランクの神戸牛を贅沢にもカツにした牛カツだ。多分これと同じ物をお店で食べれば、福沢諭吉が財布から飛んでいくんじゃないかな。
しかし、まあ、なんというか、美味しいことは美味しいのだが、一言だけ言いたいことがあった。
影山が丹精込めてせっかく作ってくれたものに文句を言うのは悪いのだが、ボクは傍に控えて立つ彼女を振り返って、「影山、朝から牛カツサンドはキツい」と零した。「まあ、れーさま。刑事は身体が資本ですわ。牛カツサンドのひとつやふたつ、ペロリと平らげないでどういたします」
刑事だって、朝から牛カツは食べないと思うよ。それに、ボクは脂身の味が強いA5ランクよりも、A4ランクくらいの程よく赤身の割合が多い肉の方が好きだし。
「れーさま、ファイトですわ。刑事としての激務に耐えるため、牛カツを食べて事件にも勝つのです」
センター試験の朝にトンカツを食べる受験生じゃないんだから、妙な験担ぎをさせるのはよしてほしい。
ところで、さっきから影山が言っている通り、ボクの職業は刑事だ。
日夜凶悪な犯罪者どもと戦い続けるボクにとって、栄養摂取も仕事のうちと言って良い。
仕方なく、凶悪な牛カツサンドと戦い、辛くも勝利した。朝食を終え、しっかり歯も磨いたあと、リビングのソファで寛ぐ。
新聞の社会面に目を通していると、スーツのポケットにしまっていたスマホが鳴った。
取り出して着信先を確認してみる。画面には『風祭警部』と表示されていた。
やっかいな女の名前を見て深い溜め息が出るが、上司の電話をシカトするわけにもいかないので、嫌々ながら通話キーをタップした。「おっはよーっ、宝生君。元気〜?」
「うっ……おはようございます」朝っぱらからテンションの高い風祭警部の声が、ボクの左耳の鼓膜を揺らす。
思わず、うっせぇバーカ、と言いそうになった。
しかし、彼女の階級は警部で、ボクの階級は巡査部長なので、迂闊に罵るわけにもいかない。
警察の階級制度を全く知らない人なんかは、警部と巡査部長ってどっちが偉いの、と疑問に思うかもしれない。
残念ながら警部という階級は、巡査部長よりも二階級も上なのである。
ボクが彼女と同階級に上がるには、地道に勉強して昇進試験に二回合格するか、殉職して二階級特進するしかない。
殉職は御免なので、彼女に、うっせぇバーカと言える日は遠そうだ。 - 9 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:09:59.833 ID:pyRicHye0
- 「あのねぇ宝生君、国立リッキティホテルの客室で遺体が発見されたんだって」
「遺体発見ですか」
「うん、明らかに他殺とみられる痕跡があるらしいよ。あたしたちの出番だよ、スピード解決しちゃおうね」スピード解決、などと嘯く風祭警部だったが、彼女が活躍しているところなど見たことがない。
「今日は署には来ずに現場直行でいいよ。リッキティホテルの場所わかる?」
「はい、大丈夫です」正直に言えば国立リッキティホテルの場所なんて知らないが、どうせ影山に車で送ってもらうので、ボクは知らなくてもいいのだ。
「じゃ、そういうことで頼むね」
「了解しました」ボクは、電話越しだというのに、ついつい条件反射で敬礼のポーズを取ってしまった。通話が切れたので早速影山に、「国立リッキティホテルに向かう。車を出してくれ」と指示した。
影山は、「了解しました」と言ってビシッと敬礼した。おい、なんだお前、普段は敬礼なんかしないくせに、からかってんのか。
電話越しにお辞儀しちゃうサラリーマンとかよく居るだろ。電話越しに敬礼しちゃう刑事が居たっていいじゃないか。影山の運転するリムジンに乗って、ボクは現場に向かう。
何故メイドが運転しているのかといえば、それは彼女がメイド兼運転手だからに他ならない。
丁度ボクが大学を卒業する頃に、メイドとして雇ってほしい、と何処からかふらっと宝生家に現れた彼女は、炊事洗濯掃除はもちろん、車の運転に護身術に野球に、さらには推理まで得意だというスーパーユーティリティメイドだった。
ただ、護身術と野球と推理に関しては、彼女の実力を未だ確かめた事はないので、ちょっと眉唾物だと思っている。
本人の談では、「女子プロ野球選手になるか名探偵になるか散々迷った挙句、名プロメイドになったのです」との事なのだが、名プロメイドってなんだ。
よくわからないので詳しくは聞いてない。
大体、名探偵なんてものはミステリの中にしか存在しないのだ。ボクはまだ刑事課に配属されて日が浅いが、今まで名探偵のような推理力が必要な、ミステリ的難事件に遭遇した事はない。
事件はいつだって、刑事が地道に頑張って、足で稼いだ情報によって解決される。「影山、いつも通り目的地の少し手前で降ろしてくれ。そこからは歩く」
ボクが宝生家の人間である事は、風祭警部も含めて、同僚たちには明かしていない。
現場にリムジンで現れるわけにはいかないのだ。「かしこまりました、れーさま」
ところで、その『れーさま』っていう気の抜けたアクセント、なんとかなんない?
- 10 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:18:18.963 ID:pyRicHye0
- 「正義の味方とか、良いかもしれない」
もやもやした霧のように曖昧な夢だったけれど、多分この瞬間、ボクの将来が決定したのだ。日曜朝の正義の味方番組とか好きだったし。
「まあ、正義の味方ですか? 格好いいです! 是非わたくしの事も御守りいただきたいですわ!」
隣の隣の隣の、そのまた隣の高校に通っていた女子が言った。会員ナンバーは一万とんで、え〜っと、えぇい思い出せん。
とにかくその女子にボクは、「もちろん」と応えて微笑んだ。ボクの出身高校は、全国有数のセレブリティだけが通う超有名お金持ち高校だった。生徒は皆、なにかしらの有名企業やら有名財閥やら有名一族の令息、令嬢ばかり。
大抵この高校の出身者はみんな、親の跡を継いだり、コネを最大限に利用して楽して生きたりしている。
ボクも、将来は父に代わってグループを背負って立つ人間になる、なんていう風に周りは期待していたのだろうけど、ボクはその立場をトウキックで蹴飛ばした。
全国有数のセレブだけが通う高校をトップクラスの成績で卒業したボクは、全国有数の頭脳の持ち主だけが通う超優秀な大学に、下から数えた方が早い程度の成績で入学した。大学に入ってからはサークル活動に精を出し、講義は大抵自主休講。
因みに、ボクが所属していたサークルは、春はお花見を楽しみ、夏は沢登りやキャンプで自然に親しみ、秋は紅葉を狩って冬は雪山をスノーボードで疾走するという、とても健康的な集団だった。一年中遊び呆けていたともいう。
そんな学生生活だったので、四回生になる頃には尻に火がつき、Siriに向かって「ヘイ、Siri! 単位の取得方法は?」なんて質問をしては「単位の取得方法に関する情報がウェブでみつかりました。真面目に勉強しろ」などと、機械文明に裏切られる日々が続いていたのだが、そこは明晰たる頭脳を持つボクだ、なんとかギリッギリで留年せずにストレートで卒業した。
そのストレートっぷりを野球で喩えるなら、外角低めを薄皮一枚掠める程度のアウトローだ。四回生になるまでは、講義にほとんど出席しないなんていう、アウトローな大学生だったボクには相応しいかな。毎日毎日フルタイムで講義を受けていた大学四年目の日々ではあったが、ボクはちゃっかり講義の合間に警察官採用試験を受け、これまたちゃっかり合格していた。
超優秀な大学の学生だったんなら、キャリアになれば良かったのに、なんて周囲の囁きも聴こえて来そうだが、ボクが目指したのは正義の味方であって警察官僚ではない。
現場の刑事でなくては意味がないので、国家公務員試験はわざと受けなかったのさ。本当だよ。ボクが本気出せばキャリア程度簡単になれたもの。 - 11 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:18:25.609 ID:pyRicHye0
- 「正義の味方とか、良いかもしれない」
もやもやした霧のように曖昧な夢だったけれど、多分この瞬間、ボクの将来が決定したのだ。日曜朝の正義の味方番組とか好きだったし。
「まあ、正義の味方ですか? 格好いいです! 是非わたくしの事も御守りいただきたいですわ!」
隣の隣の隣の、そのまた隣の高校に通っていた女子が言った。会員ナンバーは一万とんで、え〜っと、えぇい思い出せん。
とにかくその女子にボクは、「もちろん」と応えて微笑んだ。ボクの出身高校は、全国有数のセレブリティだけが通う超有名お金持ち高校だった。生徒は皆、なにかしらの有名企業やら有名財閥やら有名一族の令息、令嬢ばかり。
大抵この高校の出身者はみんな、親の跡を継いだり、コネを最大限に利用して楽して生きたりしている。
ボクも、将来は父に代わってグループを背負って立つ人間になる、なんていう風に周りは期待していたのだろうけど、ボクはその立場をトウキックで蹴飛ばした。
全国有数のセレブだけが通う高校をトップクラスの成績で卒業したボクは、全国有数の頭脳の持ち主だけが通う超優秀な大学に、下から数えた方が早い程度の成績で入学した。大学に入ってからはサークル活動に精を出し、講義は大抵自主休講。
因みに、ボクが所属していたサークルは、春はお花見を楽しみ、夏は沢登りやキャンプで自然に親しみ、秋は紅葉を狩って冬は雪山をスノーボードで疾走するという、とても健康的な集団だった。一年中遊び呆けていたともいう。
そんな学生生活だったので、四回生になる頃には尻に火がつき、Siriに向かって「ヘイ、Siri! 単位の取得方法は?」なんて質問をしては「単位の取得方法に関する情報がウェブでみつかりました。真面目に勉強しろ」などと、機械文明に裏切られる日々が続いていたのだが、そこは明晰たる頭脳を持つボクだ、なんとかギリッギリで留年せずにストレートで卒業した。
そのストレートっぷりを野球で喩えるなら、外角低めを薄皮一枚掠める程度のアウトローだ。四回生になるまでは、講義にほとんど出席しないなんていう、アウトローな大学生だったボクには相応しいかな。毎日毎日フルタイムで講義を受けていた大学四年目の日々ではあったが、ボクはちゃっかり講義の合間に警察官採用試験を受け、これまたちゃっかり合格していた。
超優秀な大学の学生だったんなら、キャリアになれば良かったのに、なんて周囲の囁きも聴こえて来そうだが、ボクが目指したのは正義の味方であって警察官僚ではない。
現場の刑事でなくては意味がないので、国家公務員試験はわざと受けなかったのさ。本当だよ。ボクが本気出せばキャリア程度簡単になれたもの。 - 12 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:20:08.236 ID:pyRicHye0
- まあ、それは置いといて、そういうわけで大学を卒業して数年が経った今現在、ボクは国立署の刑事課でノンキャリアの一刑事として勤務している。
高校時代のファンクラブの子たちが知れば、「こくりつ署の刑事なんて、れーさま凄〜い」なんて歓声が湧きそうだが、残念ながらこくりつ署ではなく、くにたち署だ。別に国立市が残念なんて言ってるわけじゃないよ。ボクは国立が大好きだからね。宝生グループのパワーを行使すれば所轄の警察署の下っ端刑事ではなく、警視庁捜査一課にも、いや、それどころか、最年少警視総監にだってなれるんだろう。
だけど、ボクは警察官となったその日に、自分の力だけで正義の味方としての責務を果たすと誓ったので、同僚たちには、自分が宝生家の人間だということを明かすつもりはない。
だから周りの同僚刑事たちは、ボクが着ているバーバリーのスーツを量販店で買った吊るしの安物だと思っているし、黙っていても溢れ出る気品を隠す為に、やむを得ず掛けているアルマーニの伊達眼鏡も、視力が弱いから掛けているだけの普通の眼鏡だと思っている。
見る人が見れば、安月給の下っ端刑事にあるまじき装いだという事はバレるんだろうが、ここには見る人なんていないので安心である。さて、高校時代の淡い思い出から刑事になるまでのボクの道程についてはこれくらいでいいとして、本題に入ろう。
今、ボクの周囲ではむくつけき同僚刑事どもが難しい顔をしてホトケ様に手を合わせている。
ホトケ様って言っても仏壇仏像の類じゃないよ。それは、とあるホテルの一室に倒れ伏している男性の遺体だ。
遺体のそばには、缶ビールが無造作に転がっている。
第一発見者はホテルマンの青年。モーニングコールを頼まれていたのに、何度電話を掛けても出ないので直接起こしに来たら、遺体と遭遇することになったらしい。
今は、ボクの三期上の先輩刑事に、別部屋で事情聴取を受けている。第一発見者を疑えってのは捜査の鉄則だけど、流石にホテルマンが犯人ってことはないだろうね。
財布が中身も含めて丸々残されていたことから、物盗りのセンも薄いらしい。
ただ、携帯電話の類いは発見できないとか。携帯電話狙いの泥棒なんていないだろうから、おそらくデータの中に犯人にとって都合の悪いものがあったんだろう。
とりあえず、ボクも同僚に倣い、神妙な表情で遺体に向けて手を合わせる。
数秒ほど目を閉じていると、この部屋のドアがガッチャーンッと大袈裟な音を立てて開いた。「宝生くーん、おっまたせ〜っ!」
- 13 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:20:44.912 ID:pyRicHye0
- 別に待ってない。朝一番から呼び出しておいて、相変わらず呑気な人だ。
殺人事件の現場だというのに、甘いシャネルの香りを漂わせながら入室して来たのは、遺憾な事にこの場で最も位の高い、警部階級である風祭京子だ。
風祭警部は、現場に最も遅れて到着したというのに悪びれる様子もなく、スキップ混じりに遺体に近寄り二回礼をした後、パンパンと二回手を叩いて、もう一度礼をした。
遺体に向かって二礼二拍一礼する刑事なんて全国を探してもこの人くらいだろう。「さあさあ、宝生君、遺体の状況を説明してくれる?」
「いえ、ボクもさっき現着したばかりなので、まだ何も」
「な〜にぃ? 仕事が遅いとあたしみたいに出世できないゾ」遅れてきたくせに偉そうな人だ。こんなんでもボクより偉い立場というんだから階級制度というのも考えものである。
風祭警部は手隙の鑑識さんを呼び、その人に状況説明を求めた。「持ち物等から判明した遺体の身元は三上貴也、三十二歳。市内にある慈愛九条第三総合病院の勤務医です。因みに担当は外科」
慈愛九条第三総合病院といえば、国分寺市にあるかなりの大規模病院だ。そこの外科医ともなれば結構な高給取りだろうに、こんなリーズナブルなホテルに宿泊しているとは解せない。
何かしらの事情があったのだろうか。 - 14 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:21:42.059 ID:pyRicHye0
- 「ドクターのくせにこんな安ホテルに泊まってたのぉ? ケチくさい男ねぇ」短絡的思考回路を存分に発揮して、風祭警部が言う。
「そんな事を言うものではありませんよ警部、例えば、急患が入って深夜まで勤務したせいで電車が止まり、遠い自宅に帰るのが億劫になったから仕方なくここに泊まったとか、そういう事情があるのかもしれません」それならば、犯人が顔見知りの場合、被害者の行動を把握できた人物が怪しいという事になる。
「いえ、被害者の自宅は遠方ではなく、勤務している病院から徒歩で五分程度の距離にあるマンションです。因みにマンション名はマンション・クジョー」鑑識さんが言った。ボクの予想はハズレたようだ。というか、このホテルより自宅の方が病院に近いじゃないか。ここから病院までは車でも二十分はかかる。徒歩五分の自宅ではなくわざわざこのホテルまで泊まりに来たという事は……。
ボクは部屋の中を見回して、被害者がここに泊まった理由に当たりをつけた。「ふむふむ、宝生君はどう思う?」
「そうですね、まだ断定は出来ませんがおそらく──」
「わからないなら教えてあげるわ宝生君。被害者は誰かと一緒に宿泊する為にここに来たのよ。ベッドサイズはダブルだし、ベッドサイドテーブルには乙女的に言葉にしにくいアレがあるし」風祭警部は、誰にでも分かる事を自信満々に言う天才だった。そんな事教えてもらわなくても、ボクにもわかってたわい。大体、乙女的に言葉にしにくいアレって、ただの避妊具じゃないか。
恥ずかしがる年齢でもあるまいに。おぼこい振りをするんじゃない。「つまり犯人は、被害者の恋人の可能性が高い、と」
「もしくは、愛人かしら。あとでフロントをチェックね。ところで死因はわかってるのぉ?」
「直接の死因は、紐状のもので首を絞められた事による窒息死です。しかし、後頭部には鈍器で殴られたような傷痕もあります。凶器は多分、あのハンマーでしょう」鑑識さんは部屋の隅に転がっていたハンマーを指差した。見たところ片手持ちのハンマーだったが、それにしては多少大振りな気がする。
ホテルの部屋に元々備え付けられていたとは思えないので、犯人が用意したものだろう。
しかし、よく見ればところどころ錆びが浮いているので、昨日今日購入したものでは無さそうだ。販売店を巡っても、購入者の特定は難しいだろうな。「また、絞殺に使用した紐状のものは、索条痕から判断しておそらくネクタイでしょうね。真偽は解剖後の検死結果が出次第報告しますが、被害者が締めていたであろうネクタイが見つかっていませんので、犯人が凶器として被害者のネクタイを使用し、その後持ち去ったものと推測できます」
元からノーネクタイだった可能性もあるが、被害者がネクタイを締めていたかどうかくらいは後で防犯カメラで確認できる。
録画映像の中の被害者がネクタイを締めていれば、凶器はそのネクタイで確定だな。
ボクは徐ろに、うつ伏せに倒れている遺体の横に寝っ転がって、索条痕を観察した。経験の浅いボクではネクタイで絞められた痕かどうか判断がつかないが、ベテランの鑑識さんならばネクタイによる絞め痕だと見破れるらしい。
索条痕には、被害者が首を絞められているときに犯人に抵抗してできたのであろう傷跡があった。
絞殺被害者は、しばしば抵抗中に自身の首を爪で引っ掻いて、縦に幾筋も走る傷跡を残す。
所謂、吉川線だ。警察学校で習ってはいたが、本物を見たのは初めてだった。「宝生君よく遺体の横に寝そべったりできるね。気持ち悪くなーい?」
「観察は刑事の基本、と警察学校で習いました」
「へえ〜、んじゃ、あたしもよく観察しとくかな〜」風祭警部は間延びした口調でそう言うと、ボクの身体の上を跨いで被害者の肩に手を掛け、どっこいせと遺体を傾けた。うつ伏せで見えなかった死に顔がボクの目の前に露わになる。
- 15 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:22:45.867 ID:pyRicHye0
- 風祭警部は間延びした口調でそう言うと、ボクの身体の上を跨いで被害者の肩に手を掛け、どっこいせと遺体を傾けた。うつ伏せで見えなかった死に顔がボクの目の前に露わになる。
「ちょっと警部! 何してるんですかっ!」
「だから観察よ。どうせもう現場写真は撮り終わってるし、このあと遺体は運び出されるんだから、ちょっとくらい動かしても問題無い無い」そんなもんなのだろうか、鑑識の人も怒ってないのでいいのか。傍若無人な風祭警部に何を言っても無駄、と諦めているだけかもしれないが。
「あっ、こいつシャツのボタン第一ボタンまで締めてる。神経質なヤツと見た」
「別に第一ボタンまで締めてるからって神経質とは限らないのでは?」ボクだって第一ボタンまできっちり締めているが、別に神経質というわけではない。まあ確かに、国立署刑事課に生息している第一ボタンを締めない連中は、どう考えても神経が太いヤツばかりなので、そういう連中に比べたら被害者は神経質なタイプなのかもしれないけど。
「あ〜、重いわ。観察終了」
風祭警部は遺体に掛けていた手を急に離した。
遺体はその額をごつんと床に打ちつけて、またうつ伏せに戻った。何してるんだこの女。
ベテランの鑑識さんはその行いを注意するように、ゴホン、と空咳をした。「警部、とりあえずどいてもらえますか」
「はいはーい」ボクの身体を跨いでいた警部をどかせ、立ち上がる。犯行状況に関する鑑識さんの見解を聞きたい。
「犯行の状況を詳しく御説明願えますか?」
ボクの質問に、鑑識さんはひとつ頷いてから口を開いた。
「被害者はあちらにある二人がけのテーブルの、ドアに近い側の椅子に座っていたのでしょう。ドア側の椅子からは被害者の指紋が検出されました。また、逆に窓側の椅子からは、犯人のものらしき手袋痕が出ています」
手袋痕は文字通り、手袋を着けた手で触れた痕跡だ。犯人は手袋をしていたのか。
用意周到、とまではいえないかな。今時指紋を残すような馬鹿な殺人犯はいない。
勿論、衝動的な殺人の場合はその限りではないので、今回は計画的犯行の可能性が高いというわけだ。
凶器のハンマーまで用意しているし。「椅子に血痕が付着していることから、犯人はまず、椅子に座っている被害者を背後からハンマーで殴ったものとみられます。殴られた被害者は半ば昏倒しながらドアの方へ這いずり、逃げ出そうとしました。そして、犯人はまたしても背後から、被害者の首を絞めたと思われます」
成る程、遺体は椅子から少し離れている。殴られて朦朧としている意識の中で、必死になって逃げ出そうとしたのだろう。
あの大振りのハンマーを使って後頭部を襲えば、非力な女性でも大の男を昏倒させるのは難しくない。
また、絞殺についても背後からということであれば、ほとんど抵抗は受けなかっただろう。
鑑識さんの説明で状況は大体掴めた。「死亡推定時刻は午前一時前後、幅をもたせて零時から二時頃とみて欲しいですが、これも解剖後に詳細な報告をします」
鑑識さんの言葉をちゃんと理解しているのかいないのか、風祭警部は退屈そうに、ふぅん、と零した。
ボクはきっちり手帳にメモしたけれど、警部はペンを取る素振りすら見せなかった。あとで訊いてきても教えてやらないぞ。 - 16 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:23:18.842 ID:pyRicHye0
- 「じゃ、宝生君、フロントに行こっか。チェックインの時に名前残してたり、防犯カメラに映ってたりしたら楽なんだけどなぁ」
風祭警部は軽い調子で呟きながら部屋を出て行った。ボクもそのあとに続く。
この事件は計画的犯行なのだから、そんなに簡単に犯人が痕跡を残している筈がない。
しかし、防犯カメラについては、犯人もその設置場所の全てを把握出来ていないかもしれない。とりあえず、防犯カメラの映像には期待するとしよう。
ボクは、エレベーターへと向かって意気揚々と歩く風祭警部の後ろを付いて行きながら、この客室の入り口が見渡せる廊下に、防犯カメラがひとつでもあれば話は早いのに、と思った。
でもまあ、こんな所に防犯カメラなんか無いだろうことは、当然ボクにもわかっているのだった。 - 17 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:24:53.002 ID:pyRicHye0
- ホテルのフロントをチェックしたところ、やはり三上貴也は犯人と二人でここに宿泊していたらしい。
予約時の名前は田中だ。フロントに設置されている防犯カメラの映像を確認したところ、チェックインの記帳をしたのは三上だった。
その首元には、きっちりネクタイが締められている。あれは、エンポリオアルマーニの新作だな。
しかし、残念ながらその周りに犯人らしき人物の影は映っていない。
フロント係に断わって、三上が書いた名前と住所を確認する。氏名欄には田中隆也、そして住所欄には神奈川の地名が記載されていた。
ボクは神奈川の地名には明るくないので、その住所が本当に存在するのかどうかはわからないが、三上の自宅の住所でないことは確かだ。「やったーっ! 宝生君、犯人の名前は田中なんじゃないかな?」
「そんなわけないでしょう警部。三上が適当に使った偽名に決まってます」
「もう、わかってるわよ。ちょっとした冗談じゃない」三上が咄嗟に、相手の名字を偽名に使用して記帳したという可能性もあるにはあるが、そんな簡単に犯人に辿り着けるなら、刑事は必要ない。
田中というありふれた名字は、如何にも偽名っぽかった。「しかし、三上がチェックイン時に偽名を使ったという事は──」
「説明しよう! 宝生君! 男が偽名を使うときは大抵なんかしらやましいことがあるものよ! まあ、大方不倫でもしてたんじゃないかしら?」ボクが言おうとした事を、風祭警部は素早く奪い取って自慢気に早口で捲し立てた。ホントにもうこの人は。
「ドクターの不倫相手っていったらナースかなぁ、女医かなぁ、元患者ってセンもあるかしらぁ。どう思う? 宝生君」
「さあ、どうでしょう? でもとりあえず、勤務先の病院に行ってみましょうか」ボク達はホテルでの捜査を同僚たちに任せ、一足先に慈愛九条第三総合病院に向かった。
ボクは今日、自宅から直接現場に急行している。その時は、ウチのメイド兼運転手である影山にリムジンで送ってもらったので、現在ボクには病院へ行く足がない。
仕方なく、風祭警部の愛車であるジャガーの助手席に座ることとなった。その車体のカラーは陽光照り返すシルバーメタリックで、目に悪い事この上ない。
全く、警部は頭も悪ければ趣味も悪い。「警部、なんでジャガーなんか乗ってんですか?」
「え〜、ジャガーカッコいいじゃない」
「いや、まあ車種の好きずきは人それぞれですけど、警部って『風祭モータース』の社長令嬢じゃないですか。風祭モータースの車には乗らないんですか?」 - 18 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:25:33.088 ID:pyRicHye0
- そう、風祭警部は風祭モータースという中堅自動車メーカーの創業者一族のお嬢様なのだ。
風祭モータースの車は、その独創的な造形と独創的な機械設計により、一部のマニアからは『走る美術品』、もしくは『走らない美術品』と呼ばれる。
その造形美は奇抜にしてオンリーワン。同業他社には、絶対に真似できないものと言われている。
そして、燃費の悪さと故障率の高さは業界ナンバーワン。同業他社には、絶対に真似してはいけないものと言われている。
そんな風祭製自動車は、自動車修理工が選ぶ好きな車ランキングのトップオブトップを数年連続でひた走っていた。
もちろん修理工に好かれている理由は、すぐ故障して走らなくなるからだ。
噂では自動車修理工の収入の約半分を、風祭製自動車の修理代金が占めているとかいないとか。「ウチの車もいっぱい持ってるんだけどね、え〜っと全部で二十台くらいかな」
そんなミニカー感覚で自動車を所有しているとは、やはりこの人はそれなりにお嬢様なのだな。
かくいうボクも、その気になればミニカー感覚でベンツでもポルシェでも所有できるのだが。「今、ジャガー以外全部壊れちゃってるのよ」
さすがは故障率業界ナンバーワンだ。そんな車絶対乗りたくないので、ジャガーで我慢しとこう。
急発進と急ブレーキを繰り返す、風祭警部の危なっかしいドライビングによって、ボク達は慈愛九条第三総合病院にたどり着いた。
あんな冷や汗ものの運転を披露されるくらいなら、ボクがハンドルを握ったほうがマシだ。と言っても、実はボクも運転にはあまり自信がないのだが。
一応十八歳の時に普通免許は取得したが、それ以来、全く運転したことがないペーパードライバーなのだ。
なんせウチにはリムジンが掃いて捨てるほどあるし、その運転手も気分次第でリストラしまくれる程余っている。
可哀想だからリストラなんかしないけど、最近のボクの送迎を担当している運転手は影山ひとりなので、仕事にあぶれた他の運転手たちはグラサンに黒服姿で雑用をこなしている。
勤務中にリムジンを呼びつけたりしたら、ボクが超絶お金持ちである宝生家の人間だということがバレてしまうので、病院から国立署に戻るときはハイヤーを呼ぼう。
ハイヤーって経費で落ちるんだろうか、別に自費でも構わないけれど。 - 19 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:26:09.638 ID:pyRicHye0
- 病院の受付で警察の認識票を見せて事情を説明すると、なんといきなり院長室に通された。
まずは三上貴也の、直属の上司あたりと面会することになると思っていたのだが、もしかして三上貴也は、院長の覚えがいい出世頭だったりしたのだろうか。
風祭警部とともに簡単に自己紹介したあと、豪奢なソファに腰掛ける。
院長の名前は九条陸三郎というらしい。三男坊とみた。
慈愛九条グループは親族経営だから、第一病院は陸一郎が、第二病院は陸二郎が院長を務めているのかな? 陸一郎、陸二郎という安直な名前はボクの適当な想像だけれど。
早く詳しい話を聞きたいという院長に、風祭警部がとっちらかった説明をする。
途中途中でボクが適切なフォローを入れてなければ、院長は半分も理解出来なかっただろう。
犯人はおそらく三上貴也の愛人らしいということは、まだ伏せておいた。「まさか、貴也君が……そんな」
院長は血の気が引いた真っ白な顔でそう呟いた。
ボクは、院長の三上貴也に対する、『貴也君』という親しげな呼称が気になったので、その事について訊いてみる。「ああ、失敬。三上先生はウチの娘の婚約者なのですよ。ほんの二週間ほど前に婚約したばかりで、まだ公にはしていなかったのですがね」
驚いた。ということは、慈愛九条グループが親族経営であることを考えると、三上貴也は次期院長の有力候補だったというわけだ。
これは俄かに、犯人は次期院長の座を狙う権謀術数の輩である可能性が出てきたぞ。なんだか白い巨塔サスペンスじみてきた。「失礼ですが、娘さんに御兄弟は?」
ボクがそう訊くと、院長は僅かに顔を顰めた。権力闘争に端を発する殺人だと疑っているのを、見破ったのだろう。
ボクも、悟られるのは承知で訊ねたので、それは別にいい。「三上先生と婚約していたのは、次女の二葉です。御察しの通り、三上先生には婿養子に入ってもらい、行く行くは彼にウチの病院を任せるつもりでした。しかし、長女の一華は、それに対して異論は無かった筈です。一華はウチで内科医として勤務しているのですが、あの娘は出世に興味がない現場主義な上に、結婚もしないなどと言っているのです。院長の座を狙って三上先生を殺めるなどあり得ません。そして、他に兄弟はいません」
ふむ、刑事相手だけあって、かなり腹を割って話してくれているようだ。
この話が本当なら、白い巨塔サスペンスはお蔵入りかな。 - 20 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:26:58.411 ID:pyRicHye0
- 「三上先生の婚約者にはお姉さんがいらっしゃるんですか。はあ……ひひっ、ふぅん、へぇ〜、ほぉ〜」
はっひふっへほーってバイキンマンかアンタは。風祭警部は間違いなく、三上貴也を巡る姉妹同士の三角関係を想像している。
ニヤニヤと笑う彼女にボクがドン引きしていると、突然、院長室の扉が勢いよく開いた。「お父様っ!」
「二葉っ! 来客中だぞ、騒々しい」
「お父様、貴也さんが、貴也さんが殺されたというのは本当なのですかっ!」
「なっ、何故それを、まだ連絡していないというのに」
「受付で働いている女性に連絡を受けたのです……」勢い込んで入室してきたのは、どうやら九条二葉さんらしい。彼女は白いハンカチを握りしめていた。真っ赤に充血した目には涙が浮かんでいる。
「……お父様、本当、なのですか?」
「……どうやら、事実らしい」二葉さんは、ああっ、と叫んで膝から崩折れた。慟哭しながら涙を流す様は、婚約者の死を心の底から悲しんでいるようにみえた。演技だとは思えない。
二葉さんが泣き止むまでには、長い時間を要した。
涙が止まった事で、多少の落ち着きは取り戻したようだが、それでも時折まだ嗚咽を洩らしている。「刑事さん、お願いです。早く犯人を捕まえてください」二葉さんは気丈に振る舞い、風祭警部に強い目を向けた。
「ええ、ええ、勿論そうしたいと思っておりますとも。その為にも、二葉さんにはいくつか質問があるのですが」
「それが犯人逮捕に繋がるならば、なんでもお答えします」
「では、日付でいうところの今日の午前零時から二時、どこにいらっしゃいましたか?」二葉さんの目が、はっと見開かれる。ボクは警部の隣で、あちゃーと頭を抱えた。
もうちょっと訊き方ってもんがあるだろうに。「それは、アリバイ確認というものですか? 私を疑っていらっしゃるの?」
「いえいえ、二葉さんを特別疑っているわけではありません。形式的な質問ですよ。関係者全員に訊いて回ります。ですから九条院長にも、同様の質問をさせていただきます」警部は、九条親子の顔を交互に見遣りつつ言った。
「仕方ないね」院長は嘆息しつつ口を開く。「しかし、零時から二時となると、アリバイは無い。自宅で眠っていたからね」
まあ、大抵の人はそうだろうな。むしろ、確固たるアリバイがあった方が何かしらのトリックが疑われるかもしれない。
「私もその時間は自宅で眠っていました。アリバイはありませんわ」
「一応、御自宅がどこか伺っても? 実家暮らしですか?」警部め、院長には自宅の場所を訊かず、二葉さんにだけ訊いたら、二葉さんの方を特別疑ってますよって言ってるようなもんじゃないか。
「いいえ、今は一人で暮らしています。ここから五分ほど歩いた所にある、マンション・クジョーに住んでますわ」
「マンション・クジョーというと、三上先生と同じ?」警部は確認するように言った。
「はい」
「クジョーというマンション名から分かる通り、ウチで経営しているマンションなのですよ。ですから、ウチの病院関係者には格安で貸したり、分譲したりしています。職場と自宅が近い方が色々便利なので」成る程、院長のいう通り色々メリットはあるだろう。通勤のストレスが無くなるし、急患にも対応しやすい。四六時中呼び出されたりしたらたまったもんじゃ無いだろうが。
しかし、これで二葉さんが犯人である可能性はほぼ消えたと言っていいだろう。
同じマンションに住んでいる婚約者と、近場の安ホテルに泊まりに行くというのは妙な話だ。せめて、もう少し高級なホテルか、遠方の観光地ならわからないでもないが。
それに、婚約者とホテルに泊まるのに、偽名を使うのはおかしい。 - 21 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:27:34.176 ID:pyRicHye0
- 「ふむ、どうやら二葉さんが犯人の可能性は低いようね」
風祭警部が小声でボクに耳打ちしてくる。対面で座っている二葉さんに睨まれた。疑われるなんて心外なのだろう。
「実は我々は、三上先生と親密な関係の女性が犯人だと見ているのです」
風祭警部の言葉に、九条親子が眉を顰める。そして、ボクも眉を顰める。もうちょっと遠回しに言いなよ、警部。
「貴也さんが、浮気をしていたとおっしゃるの?」
「ええ、そういう証拠もありましたからね。あたしの口からはとてもとても言えない証拠が」風祭警部の言い方だと、余計卑猥に聞こえる。避妊具ってハッキリ言えばいいのに。遠回しに言うのはやめなよ、警部。
「貴也くんは誠実な男だった。浮気など信じられない」院長が三上貴也を庇うように言う。
「まあ、浮気なんてワイドショーでもよく聞く話です。というわけで、三上先生とそういう関係にあったと思しき女性を挙げて貰えますか?」警部のズケズケした物言いが怒り心頭に発したのか、二葉さんは目の前のテーブルをバンッと叩いて立ち上がった。
「そんならあの女に決まってらぁっ! あの女、普段から人の婚約者に色目使いやがって、この間なんて腕まで組んで歩いてたしっ!」
どうやら二葉さんの怒気の対象は、警部ではなくあの女なる人物らしい。さっきまでの楚々とした口調は崩れて、荒々しい江戸っ子みたいになっている。
「あの女とは?」楽しそうに警部が訊ねる。この人も大概ゴシップ好きだ。
「ナースの高原真奈実ですわっ! あの泥棒猫が犯人に違いないですわっ!」荒々しい口調で言うと、ですわ、という語尾が関西弁に聴こえる。
「ナースですか、医者とナース、有りがちねぇ。では早速、その高原真奈実さんと面会させて頂けますか?」
「わかりました」院長が頷いたところで、警部はスーツのポケットからスマホを取り出し、「さあて、ちゃんとメモしとこっと。た、か、は、ら、ま、な、みっと」などと態とらしく呟きながら、カメラモードで二葉さんを連写している。スマホが立てるピコンッピコンッという音がうるさい。
九条親子は、珍しい生き物を見るような、唖然とした目を風祭警部に向けた。 - 22 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:28:02.715 ID:pyRicHye0
- ナースセンターのバックヤードにある休憩室で、高原真奈実と面会できるように院長が取り計らってくれた。
ボクたちは足早に院長室を出てナースセンターに向かう。「さっき撮った九条二葉さんの画像は、解析班に回すんですね?」
「そうよ。九条二葉のセンは薄いけど、一応ホテルの防犯カメラに映ってないか確認しないとね」もうちょっと自然にできなかったのかよ、とか、怪しさ満点の演技だったぞ、とか色々文句は浮かぶが、この警部に言っても仕方ないので流しておく。
ナースセンターの休憩室には、既に高原真奈実がいた。パイプ椅子に座って煙草をふかしているが、院内って全面禁煙じゃないのか?
狭い室内に紫煙が篭って目がしぱしぱした。
高原さんは灰皿がわりの缶コーヒーに吸い殻を落として、「どうも」と会釈した。
二葉さんも美人だったが、この人もそれに負けないくらいの美貌だ。煙草の似合う大人の女ってところか。
警部は挨拶もそこそこに、さっとスマホを取り出して高原さんを連写する。
高原さんは怪訝な顔で警部を見つめながら、「この人、初対面の女を連写するクセでもあるの?」と訊いてくる。
ボクは適当に、「はい! この人にはそういうクセが有ります!」と流した。
風祭警部も「はい! あたしにはそういうクセが有ります!」と言っているので、それで良かったのだろう。「それで? 刑事さんたちが私に何の用?」
白い簡素なテーブルを挟んで椅子に腰掛けたボクたち刑事に、高原さんはそう訊ねてきた。
三上貴也が殺されたことは院長から聞いている筈だが、悲しんでいるような素振りは見せない。「三上先生の件は聞いていますね?」
「ええ、殺されちゃったみたいね。惜しい人を亡くしたわ」警部の質問に答える高原さんの言葉は、ひどく平坦で、冷たく聴こえた。職場の仲間が亡くなったら、もっと取り乱すと思うのだが。
犯人なら、たとえ心の中でどう思っていようと、もう少し落ち込んだ演技をすると思う。
つまり、この人は犯人ではないということか。いや、あるいは、そう思わせる為にわざと冷静に振る舞っているのやも。
いやいや、実は冷静に振る舞っているけど、内心は取り乱しているのやも。
なんだかこんがらがってきたから、とりあえず話を聞こう。
警部が訊ねたところ、高原さんにアリバイは無かった。その時間はひとりで自宅にいたという。
自宅はマンション・クジョーではなく、国立市にある安いマンションらしい。
病院関係者は家賃を割引かれるといっても、看護師の給与ではマンション・クジョーは高級に過ぎるようだ。
しかし、高原さんは国立市民か、犯行現場のホテルに近いな。「あなたが三上先生と只ならぬ関係にあったという話を聞いたのですが、それは事実ですか?」
- 23 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:28:47.022 ID:pyRicHye0
- 警部の問い掛けは直接的すぎる。高原さんが犯人だったら、そんな訊ね方して「はい、事実です」なんて答えるわけないだろ。
「はあ? 私が三上先生と? 誰よそんなこと言ってるのは。三上先生は私なんかより、院長のお嬢さんと親しくしてらしたと思うけど?」
その院長のお嬢さんから聞いた情報なのだが、情報源は秘密だ。
「実はその院長のお嬢さんから聞いたのですよ。あなたが三上先生に色目を使ったり腕を組んだりしているのを見たとね」
あっ、バカ警部め、情報源を簡単にバラしやがった。
「何言ってるのよ、色目なんか使ったことないわ。腕を組んだことはあるけど、そのくらいのスキンシップ、恋人じゃなくてもするでしょ」
「恋人じゃない人と腕を組んで歩くんですか?」警部はカルチャーショックを受けたような表情になる。この人、意外と身持ちは固いのかも。
「もちろん、相手が誰でも彼でもそんなことするわけじゃないわよ。三上先生は美形だったから、連れて歩くと気分が良いのよ」そういえば、高校時代のボクのファンクラブにも、そういうスキンシップの激しい子が結構いたなあ。ま、ボクも美形だから仕方ないね。
「では、あなたは三上先生とは特に親しかったわけではないんですか?」
自己申告を鵜呑みにするわけには行かないけど、本人にこれ以上訊いても答えは変わらないと思うよ、警部。
「ええ、三上先生とそういう関係だったのは、九条のお嬢さんでしょ。どっちかは知らないけど」
「えっ、それはどういう意味ですっ?」声の調子を弾ませて、警部は勢い込む。姉妹の三角関係! メロドラマ展開! と、彼女の目は爛々と輝いた。
「お嬢さん姉妹は、どちらも三上先生の事を好きだったと思うわ。一華先生なんか、よく噂になってたし」
二葉さんと婚約していることは、まだ公にしていなかったらしいが、二葉さんではなくお姉さんとそういう噂があるのか。三上貴也ってモテるんだな。
「新たな事実発覚ね宝生君。これは是非とも、九条一華にも話を訊かないと」
「そうですね、警部」
「貴方達の口振りから察するに、犯人は三上先生の恋人なわけ?」恋人というか、愛人というか、浮気相手というか、まあそういう関係の女だ。
半ばバレているとはいえ、容疑者である高原さんに言うわけにはいかないので、ボクたちは口を噤んだ。
しかし高原さんは勝手に判断したのか、ふぅん、と頷いた。「三上先生は九条姉妹以外にも、女医にナースに女性患者に、とにかく人気があったわ。私はゴシップ関連の噂は九条姉妹くらいしか知らないけど、三上先生の恋人を特定するのは難しいかもね。彼のプライベートについてなら、私より詳しい人がいるから、その人に訊いてみたら?」
「詳しい人? どなたですか?」耳寄りな情報に、ボクは食いついた。
「長迫政美さんていう人。三上先生とは大学の同期って言ってたかな」
「大学の同期ということは、お医者さんですか」女医だろうか。
「いいえ、政美さんは看護学部卒だから、私の先輩」ナースか、もしやその人が三上貴也の恋人という可能性はないだろうか。ボクがその旨を訊ねると、高原真奈実はちょっと小馬鹿にしたような皮肉げな笑みを見せた。
小馬鹿にされたのはボクか長迫政美か、ボクには判断がつかなかったので、小馬鹿にされたのは風祭警部であるという結論で納得した。 - 24 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:29:24.584 ID:pyRicHye0
- 内線で院長に問い合わせたところ、九条一華は現在診察中という事なので、長迫政美を先に事情聴取する事にした。
ナースの休憩室に現れた長迫政美の容姿を見た瞬間、ボクは高原さんの皮肉げな笑顔の意味を悟った。
女医やらナースやら患者やら、色んな女性から人気があったというイケメンモテモテドクターの三上貴也が、この人を恋人に選ぶという事はないだろう。
でも、ちっちゃいけれど黒目がちでつぶらな瞳や、丸っこい童顔なんかは、見ようによっては可愛らしいので、ボクにはなかなか好ましい容姿に思えた。
もしも恋人募集中とかだったら、ボクが立候補しちゃおっかな、なんてね。「あー、えっと、今日の午前零時から二時まで何処にいました? あと住所も一応教えてください」
風祭警部のテンションが一気に下がった。質問もやけっぱちでテキトーだ。
警部め、長迫さんが犯人の可能性は低いと思ってやがるな。まあ、ボクもそう思うけど。「その時間は自宅にいました。住所は国分寺の──」
アリバイなし、住所は国分寺のマンション。一応メモしておく。
本題は三上貴也の女性関係についてだ。とりあえず、長迫さんと三上貴也の関係についてから訊いてみよう。
警部はやる気なさそうなので、ボクが長迫さんに問い掛けた。「あなたと三上先生は大学の同期と聞きましたが、その頃から仲が良かったのですか?」
「ええ、私は看護学部で彼は医学部でしたが、二人とも大学の野球サークルに所属していたので、そこで知り合いました。私はマネージャーで、彼はエースだったんです」
「ほほぉ、野球ですか! 実はあたしも野球経験者でしてね! 女子プロ野球選手になるか名刑事になるか散々迷った挙句、結局名刑事の道を選んだのですよ。ちなみに現役時代のポジションはピッチャー、現在の階級は名警部です」風祭警部は急に勢いを取り戻し、早口で捲し立てた。
名刑事の道を選んだとかアホなことを抜かしているが、彼女は名刑事ではないし、名警部なんて階級はない。「彼は、とてもいい人でした。殺されたなんて、信じられません」
長迫さんは、トイプードルみたいな目に、涙を浮かべてそう言った。警部の妄言は無視しているが、それが賢明だ。
「実はですね、犯人は三上先生と男女の関係にあったと思われるんですよ。長迫さんは、三上先生とそういう関係にあった女性について、ご存知ないですか?」
ボクは、率直にそう訊ねてみた。捜査上の秘密はあまり洩らすべきではないが、長迫さんになら多少は構わないだろう。
「男女の関係……恋人、ということですか。九条さんと、親密な関係という事は聞いていますけど」
「九条さんというと、女医の?」九条一華とそういう関係だったというなら、風祭警部お好みの三角関係展開だ。
「いいえ、九条一華先生ではなく、この病院で事務員をしている九条二葉さんです」なんだ、二葉さんの方の話か。というか、二葉さんてこの病院の事務員なんだな。職業訊くのを忘れてた。
「えぇと、二葉さん以外の女性については?」
二葉さんが犯人という可能性は低いんだから、それ以外の女性の情報がほしい。
「えっと、恋人、とは違うんですが、三上先生は最近、とある女性に付き纏われて困っていたみたいです」
「ストーカー……ということですか、どんな女性かはご存知ですか?」
「……私が言ったという事は、内緒にしてもらえますか?」
「ええ、情報源を軽々しく洩らすような真似は、ボクは絶対しません」ボクは、ね。ボクの口は、軽くない。
口が軽い奴は名刑事にはなれない。そして、風祭警部は口が軽い。つまり、風祭警部は名刑事ではない。「一ヶ月ほど前まで、この病院に入院されていた、島尾美和子さんという方です」
元患者かあ、本当にモテるんだなあ、三上貴也。
「ありがとうございます。参考になりました」ボクは長迫さんに、頭を下げて礼を言う。
「もう、仕事に戻っていいですか? 無理を言って抜けてきたので」
「はい、でもその前に、写真を撮らせてもらっていいですか?」
「は?」
「長迫さんみたいな可愛らしい方と、一度ツーショットを撮ってみたかったんです」 - 25 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:30:43.331 ID:pyRicHye0
- ボクはスマホを取り出して長迫さんの隣に並ぶ。
「はい、笑って笑って。いや、やっぱり笑わないで、真顔で真顔で」
ピコンッピコンッと連写したあと、ボクと警部はさっさと休憩室を辞去した。
「宝生君、長迫政美みたいなのがタイプなの? 趣味わっる〜い」
「なに言ってんですか警部。この画像も解析班に回すんですよ」ボクはスマホを操作して、ツーショット写真をトリミングする。そして、長迫さんのワンショットに変換した画像を、解析班に送信した。
「長迫政美の画像は、必要ないと思うけどなあ」
「まあまあ、今のところは容疑者もしぼれて無いんですから。次行きますよ、次」ボクは風祭警部の背中を押して、応接室に向かった。九条一華の事情聴取は、そこで行うことになっている。
ボクらが応接室に着いてから二十分程がたったが、九条一華は未だに姿を見せなかった。「全く、名警部、風祭京子さまをこんなに待たせるなんて、どういうつもりかしら」
「医師は激務と聞きますからね。お忙しいんでしょう」
「刑事だって激務よ」警部がそう呟いた時、応接室の扉が音を立てて開いた。
「刑事が忙しいことは知っているが、私もこれで多忙な身なんだ。どうか、許してほしい」
果たして、扉の向こうには九条一華が居た。
どうやら、警部の愚痴は彼女の耳に届いていたようだ。大病院のクセに壁が薄いぞ。「零時から二時にアリバイは無い、自宅に居た。住所はマンション・クジョーだ」
一華さんはボクらの対面に腰掛けるなりそう言った。話が早い、というより早すぎる。ボクらはまだ何も質問していないのに。
「三上先生とは同僚として親しくはしていたが、特に異性の関係というわけでは無い。もともと、私には結婚願望がないから、恋人も必要ない。これでいいかい?」
そう言って、一華さんは椅子の肘掛けに手を置いて立ち上がろうとした。ボクは慌てて、「ま、待ってくださいっ」と引き止める。
「まだ何か質問が? 父から、これだけ言っておけば大丈夫だと言われたんだが」
院長め、余計な事を。身内だからって贔屓してやがるな。
「まあまあまあまあ、もう少しゆっくりお話を聞かせてくださいよぉ」
スマホの連写モードで何枚も一華さんを速写しながら、風祭警部はニヤリと笑った。
多分彼女の頭の中では、姉妹骨肉のメロドラマが展開されている。九条姉妹はどちらも美人だから、さぞ楽しいドラマなんだろう。
一華さんは訝しげな表情を浮かべながら、椅子に深く座り直した。「まあ良いがね。実を言うと午前の診察は非番の同僚に代わってもらったから、多少の時間はある」
「ではでは、三上先生との関係をもう少し詳しく」 - 26 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:32:00.145 ID:pyRicHye0
- 風祭警部は、傍から見ていてわかりやすいほどやる気満々だったので、ボクは一華さんへの質問は警部に任せる事にした。
「さっき言った通り、ただの同僚だ」
「でもナースの間では、三上先生と九条先生はとっても仲良しという噂があったようですけど?」
「……二人で食事に行く程度の事はあった。それだけだ」
「妹の婚約者と二人で食事にぃ? そんなことして良いのぉ?」ゴシップ狙いの芸能記者みたいな風祭警部に、一華さんは顔を顰める。もちろんボクも顔を顰めている事は言うまでもない。
「彼と親しくなったのは私の方が先だ。私は内科医で、彼は外科なんだが、ウチは総合医療病院だから、内科の患者を外科に送ることもある。つまり、申し送りなんかで他科の医師と関わる機会も多いわけだ……。その関係で彼とは食事を共にするような仲になったが、私たちの話題はいつも患者や医療に関することばかりだ。男女の仲ではなく、いわば戦友だな」
そういえば院長が、一華さんは出世欲がない現場主義と言っていたが、患者に直向きな人なんだろうなあ。
ボクが病気になったらこの人を頼ろう。無論、この人が犯人でなければの話だが。「男女の仲ではないとはいえ、妹の婚約者と二人で食事は不味いのでは? いや、料理は美味しかったんでしょうけど」
「実を言うと、私は二葉と三上先生が婚約したことを知らなかった。ついさっき、父に内線で連絡を受けて、初めて知ったくらいだ」
「おや、妹さんが婚約したことを知らなかった? それはおかしな話ではないですか?」警部の言う通り、姉が妹の婚約話を知らないというのは妙だ。
「婚約といっても、二週間ほど前に、両者とウチの親の間だけで取り決めた、仮の婚約らしくてね。正式な婚約は、近々三上先生の御両親も交えて、親族間で話し合ってから行うつもりだったそうだ。自慢するわけではないが、九条はそこそこ大きな家でね。こういう時は、色々とややこしいんだ」
ああ、それならわかる。自慢するわけではないけど、宝生家も大きい家だからね。
警部もボクの隣で、それならわかる、という表情で頷いている。風祭家も、小さくはない家なんだろう。「それに、最近は三上先生と二人きりで会うようなことはしていないよ」
「最近、というと?」警部が訊ねると、一華さんは一瞬、天井を見上げてから答えた。
「数ヶ月前に、三上先生の事が異性として気になっていると、二葉から相談されたんだ。私は男女の機微に疎いから、わざわざお互いを紹介するような事はしなかったが、可愛い妹の恋路を邪魔するわけにはいかないので、それ以来、三上先生と二人で会うのは控えたよ」ふむ、言っている事はスジが通っている。一華さんの言う通りなら、三上貴也を巡る姉妹の争いは無かったのだろう。
「それにしても、三上先生ってモテたらしいですね」警部は未だ納得してなさそうな表情だ。
「まあ、確かに整った顔立ちだから、異性に人気はあるだろうね」
「あたしたちは、生前のお顔を拝見していないのでよくわかりませんが、さぞやイケメンだったんでしょうね」警部とボクが見たのは、苦悶に歪んだ死に顔と、防犯カメラのぼやけた映像だけだ。
警部の言葉に一華さんは、「では、見てみるかい? 画像を保存しているはずだ」と言って、ポケットからスマホを取り出した。
電源を切っていたらしく、起動に時間がかかっている。2018年現在、携帯電話等の病院内使用は一部緩和されているが、さすがにお医者さんは普段電源を切っているのだろう。
一分ほど待ったのちに一華さんが見せてくれた画像は、彼女と三上貴也のツーショットだった。
ともすれば冷たい印象を受ける一華さんは、画像の中では柔らかい笑顔で微笑んでいる。隣の三上貴也は、なるほど確かに人形のように綺麗な顔をしていた。
しかし、このツーショットを見る限り……「お二人とも、仲がとっても良さそうですねえ」
- 27 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:32:44.979 ID:pyRicHye0
- 風祭警部に同意するのは業腹だが、ボクもそう思った。
一華さんへの事情聴取を済ませたボクたちは、一旦分かれて行動することにした。
警部は病院に残って、院内にいる女性の写真を撮りまくるらしい。不審者に間違われなければいいけど。
一方のボクは、長迫さんに聞いた、三上貴也のストーカーだという島尾美和子の自宅にひとりで向かう事になった。
病院から島尾美和子の自宅までは結構距離があるので、警部は、「ジャガー貸そうか?」と言ってきた。
しかしボクは、シルバーメタリックのジャガーになんて乗りたくないので、「タクシーを呼びます」と言って断った。
病院を出たボクは早速タクシー、ではなく影山を呼ぶ為にスマホを取り出そうと……したところで、呼ぶよりも前にリムジンが目前に停車した。「グッドタイミングだ、影山。連絡する前に来るとは、行動が早いな」
「れーさまの動向は、宝生家の黒服たちによって常に見守られていますので」
「マジでっ!」知らなかった。その黒服たちの人件費、ボクの刑事としての給料より高いんじゃないだろうな。
リムジンの後部座席に腰掛けて、病院で調べた島尾美和子の自宅に連絡したところ、彼女は自宅に居た。職業はデザイナーらしい。
洋服などのファッションデザイナーではなく、本の装丁やイラストを描く方のデザイナーなので、大抵在宅で仕事をしているとのことだ。
電話越しに、三上貴也が殺された事と、その件について訊きたい事があると伝えると、今日も家で仕事をしているので、いつでも来てくれて構わない、と彼女は答えた。
電話から二十分後、島尾美和子の自宅マンションについたボクは、彼女の部屋に通された。影山はリムジンで留守番だ。
その部屋は1LDKで、あまり広くは無かったが、一人暮らしには充分なのだという。
訊いたところ、島尾さんにもアリバイは無かった。「三上先生が、殺されたなんて、そんな……そんなことって……」
島尾さんは、暗く沈んだ声でそう呟いた。
「刑事さん、早く、早く犯人を捕まえてください」
二葉さんと似たようなことを言っている。立場は婚約者とストーカーで、正反対だが。
「実はですね、あなたが三上先生のストーカーだったのではないかという情報があるのです」ボクは単刀直入に訊ねた。
「何を言うんですか! 私、ストーカーだなんて、そんなことしてません!」 - 28 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:33:24.503 ID:pyRicHye0
- ボクの言葉に反発して、島尾さんは激昂する。でも、ストーカーはみんなそう言うんだよねぇ。
「でも、三上先生は貴方に付き纏われて迷惑していたらしいんですよ」
「そんな、そんな筈ないです。私、付き纏ったりなんか、してないです。ちょっと、プレゼントをしただけで」
「プレゼント、ですか?」
「はい、私、三上先生にはとても感謝してるんです」彼女は右手の甲を、左の掌でそっと撫でた。
長迫さんの話では、島尾さんは三上貴也に付き纏っていたということだったけど、ちょっとプレゼントを贈った程度なら、ストーカーってほどでもないのだろうか。「私、交通事故に遭って全身に怪我を負ったんですけど、特に、商売道具の大事な右手は、三上先生のオペ技術が無ければ、後遺症が残ったかもしれないほどの大怪我だったんです。でも、幸いこうして無事に退院して、デザイナーの仕事も再開できました。全部、三上先生のおかげです」
「成る程、それで、三上先生にプレゼントを」
「はい」医者への感謝の気持ちっていったら、袖の下から学問のすゝめの作者が定番だけど、プレゼントっていうくらいだから、薄っぺらい紙幣じゃなくて、心のこもった贈り物だったのかな?
「差し支えなければ、贈ったプレゼントは何なのかお聞きしてもいいですか?」
「ええ、なら、実物をお見せします」実物? どういう意味だろう。ボクが疑問を浮かべていると、一旦隣の部屋に引っ込んだ島尾さんは、アルマーニのショップ紙袋を持って戻ってきた。
「プレゼント用と自分用、それぞれ二つずつ買ったんです」
好きな人と同じ物を所有したいという乙女心だろうか。ボクには理解できない。
「紙袋の中、拝見してもよろしいですか?」
「どうぞ」差し出された紙袋を受け取って中身を確認すると、出てきたのは腕時計に財布にベルトに、メンズのシャツやトランクスまである。
「その、三上先生と同じ物を身に着けたいと思ってしまって……」
腕時計や財布はわからないでもないが、トランクスは必要ないだろうに。
「こんなにたくさんプレゼントしたんですか、一辺に?」
「いえ、一辺にではなく、ひとつひとつ分けて、何度も」プレゼントに託けて、何度も会いにいったわけね。三上貴也の反応次第では、ストーカー規制法でいう『つきまとい等』の行為に該当しそうだなぁ……って、あれ? 紙袋の底から出てきたこのネクタイは確か、フロントの防犯カメラに映った、三上貴也が締めていた物と同じだ。
「三上先生は、喜んでくれてました。その筈です」
三上貴也が喜んでいたのかは定かではないが、とりあえず彼は、貰うものは貰う主義だったらしい。
ボクは、島尾さんの顔をスマホで何枚か撮った後、礼を言って辞去した。 - 29 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:34:00.520 ID:pyRicHye0
- 風祭警部に連絡したところ、「病院に戻って来て〜」とのことなので、影山の運転でとんぼ返りする。
ロビーで合流すると、警部は椅子に腰掛けて項垂れた。「おかえり〜、島尾美和子どうだった?」
「嫌がらせ等の行為はしていないようでしたが、つきまといに関しては微妙なところです。ストーカー予備軍ってとこですかね。あと、事件当夜三上貴也が着けていたネクタイは、島尾美和子のプレゼントらしいです」
「へぇ〜、犯人の可能性は?」
「今のところはシロともクロとも言えません。警部の方はどうでした? 写真撮り終わりましたか?」
「それがさぁ、聞いてよ宝生君。あのね、──」警部が言うには、ホテルの防犯カメラの設置状況が芳しくない、という連絡が鑑識からきたそうだ。
なんでも、防犯カメラに映らずに客室へ行くことができるルートがあるようで、犯人の姿は残されていない可能性が高いらしい。「これだから安ホテルって困るのよねぇ。折角あたしが撮りまくった写真が無駄になっちゃったわ」
「まあ、ここは基本に立ち返って、訊き込みを続けましょう」訊き込みは刑事の基本、捜査の原点、ということで、三上貴也の関係者を回ることにした。
途中から同僚刑事たちを増員して、病院内の交友関係をほぼ網羅したのだが、目新しい情報を得ることは出来なかった。
わかった事は、三上貴也は女性に人気があるということだけだ。
大規模病院だけあって訊き込みにも時間がかかり、日も沈んできたので、今日のところは署に引き上げる事にした。国立署に着いたボクと警部は、証拠物件管理室に赴き、被害者の所持品を調べている。
スケジュール帳やシステム手帳でもあれば、と思ったのだが、残念ながらそのような証拠品は無かった。
最近は携帯でスケジュール管理する人も多いので、もともと紙媒体のスケジュール帳は持っていなかったのか、犯人が持ち去ったのかはわからないが、とにかく、三上貴也の交友関係を示す手掛かりは何も見つからなかった。「携帯電話が見つからなかったのは痛いわね。携帯なんて、個人情報の宝庫なのに」
被害者の財布に入っていたカード類を眺めながら、警部はボヤいた。
「そうですね。だからこそ犯人が持ち去ったんでしょうけど」
「名刺も何枚かあるけど、付き合ってる女の名刺なんか持ってないでしょうしねぇ……あら、これって」
「何かありましたか?」
「くふっ、あはっ、あはははははっ! 見てよこれ宝生君っ。三上貴也のヤツ、ホテルのポイントカードなんか貯め込んでるわよ! なにこの量、何年分よ、あはははははっ!」なんだそんな事か、こっちは真面目に遺留品調べしてるってのに、サボってんじゃないよ。
「ポイント貯めたらどうなるのかしら、アメニティでも貰えるのっ? それとも値引き? あんな安ホテル、値引きしたらタダになっちゃうじゃないっ。あははははっ!」
楽しそうで何よりだが、結局、身になる遺留品は発見できなかったので、ボクらは証拠物件管理室を後にした。
デカ部屋に行って、休憩がてら苦いだけのまずいインスタントコーヒーを飲んでいると、被害者の自宅を捜索していた連中が戻ってきた。
しかし、彼らも、特になんの情報も見つけられなかったらしい。
明日からは病院関係者の外にも対象を広げ、さらに被害者の交友関係を探るという事が決定されたところで、とりあえず今日は解散となった。 - 30 名前:ここからは表現の自由でイカせていただきます 投稿日時:2025/04/15(火) 21:34:36.928 ID:pyRicHye0
- 犯人だ〜れだ?
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