奈倉清孝「同性愛は思ったより多い印象」

まだ若かった頃、取材中に男性の有名人から、いきなり手を握られたことがあった。その人とは何度か仕事上の話をするために会っていた。極秘の情報があると言われて個室の料亭に入ったときだった。

「どうしたんですか？」

「実は僕、ゲイなんだ。そうは見えないでしょう？結婚もしているけど、それはカムフラージュ。子どもだけ作って、それから妻とはセクロスレスなんだよ。あなたのこと、すごくタイプなんだ。どうだろう…」

「そうなんですか？僕は異性愛でして…。好きになってもらったなんて光栄ですが…」

「そうなんだね。ゲイじゃないかと思ったんだけどね」

僕は話すときに相手の目をじっと見てしまう癖がある。それが誤解されたようだ。

「じゃあ、しょうがない。今言ったことはもう忘れてね。あなたを信用して言ったんだから、絶対に内緒だよ」

「もちろん、言いません。大丈夫です」

「これが広まってしまえば、自分の社会的地位はなくなってしまう。約束を破ってバラしたら56すからね、そして僕も死ぬ」

普段は優しい顔なのにこの「56すからね」の一言のときに怖い顔をしていた。その人はもう亡くなったので書いているが、本来ならばあの世まで持ってゆく話だった。

彼は無理強いすることもなく、すぐに諦めてくれた。相手にその気がないなら、あっさり手を引くのがゲイの礼儀だと彼は言った。職業別では、芸能人、政治家、編集者、画家、音楽家、俳優にはなぜかゲイが多いことも教えてくれた。

取材日記　同性愛は思ったより多い印象｜奈倉清孝

まだ若かった頃、取材中に男性の有名人から、いきなり手を握られたことがあった。その人とは何度か仕事上の話をするために会っていた。極秘の情報があると言われて個室の料亭に入ったときだった。 「どうしたんですか？」 「実は僕、ゲイなんだ。そうは見えないでしょう？結婚もしているけど、それはカムフラージュ。子どもだけ作って、それか...

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