女性が薄着になる季節になりましたね。

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これは痴漢なのか　背後から触られた感触、女性の葛藤

昨年11月上旬のことだった。
横浜市内に住む30代の女性は朝の通勤電車で、背後から下半身になにかが触れるような感触を覚えた。
最初は「かばんが当たったのかな」と思った。
だが同じような感触が週に2日、3日と続いた。自宅の最寄り駅から、次のターミナル駅までは約10分。いつも5分ほど経ったところで始まり、頻度は高くなっていった。かばんではなく、手の甲で触れているような感じがした。
ある日、駅で乗客が一斉に降りる時に思い切って振り向いた。背後にいた男の顔が目に入った。「この人じゃないか」と思った。
数日後、駅で電車を待っていると同じ男が後ろで並んでいた。乗車して車内に進むと男もついてきた。「この人だ」と確信した。
女性は毎日、同じ電車の同じ位置で乗り、ドアの近くに立つ。被害に遭わないよう、乗る位置を変えることも考えた。
だが、「安全な通勤を侵害されたくない」という思いが上回った。被害に遭いながら、「まあいいか」と流してきた学生時代の記憶もよぎった。迷いながら夫に相談すると、神奈川県警鉄道警察隊の連絡先を調べてくれた。昨年12月半ば、思い切って電話をかけた。
男性相談員は女性の話に30分ほどじっくり耳を傾け、捜査の用意があると告げた。「私が乗り口を変えるのは嫌なんです」。そう訴える女性に、相談員は言った。「そういう方はたくさんいます。あなただけじゃないですよ」
女性は「気が強いと思われるんじゃないかと心配だった。怒りも肯定してもらって、『腹を立ててもいいんだ』と思えました」と振り返った。
出せなかったサイン、それでも4日目に…
電話をかけた2日後の朝、私服警察官が電車に同乗する「同行警乗」が始まった。
初日は男性警察官3人と女性警察官が女性の近くに立った。被害を現認して、容疑者をその場で検挙する狙いだ。被害にあったらマフラーをつかんで知らせることも決めた。
女性は悩んでいた。本当に痴漢なのか、確信が持てなかった。「間違った相手を犯人扱いしてしまうことが怖くて。『気のせいかも』と思うとよく分からなくなって、パニックになりそうだった」。初日も触られた感触があったが、サインを出せなかった。
4日目の朝。女性は捜査に協力する緊張感や不安感で、疲れを感じていた。
いつものように同じドアから電車に乗り、発車して5分ほど経った頃だった。
「とんっ」とはじくように、背後からなにかが下半身に触れた。
一瞬だが、しばらくするとまた触れてくる。徐々に間隔が短くなった。
「今しかない」
女性は首に巻いていたマフラーをぎゅっとつかんだ。それが合図だった。
「なんでだかわかりますよね」
私服の男性警察官が、女性の背後にいた男の手をつかんで言った。女性警察官は女性を守るようにさっと抱き寄せ、スマートフォンの画面を見せた。
電車は走り続け、周囲は他の乗客に囲まれている。「どんな感じでしたか？」。画面に表示された質問を見て、女性は黙って打ち込んだ。「何回か触れてきました」
駅に到着し、男は女性の体を触った神奈川県迷惑行為防止条例違反（痴漢）の疑いで検挙された。いつも背後にいたあの男だった。
「やっと終わった」。女性は緊張と疲れで、肩の力が抜けるような感覚に襲われた。
男が検挙されたことを受けて、その日の仕事は休み、そのまま警察署で事情聴取を受けた。捜査員からは、男が3カ月前から女性を狙っていたと説明していることや、「薄着だったから狙った」などと話していることも聞かされた。自分の服装を理由にされたようで、腹が立った。
署から解放されたのは、午後3時前だった。検挙の安心感と同時に、大きな疲労感に襲われた。
印象に残ったことがある。事情聴取の最中に捜査員が指で電話帳ほどの厚さを示して言った。「人を1人起訴するのに、これだけの書類が必要なんです」
その言葉に女性は、捜査の重みを実感したという。
女性は言う。「痴漢は犯罪で、する方が悪いんだ。立ち向かっていいんだ。もやもやしている人も、これは犯罪なんだと考えられるようになったらいいのかなと思います」
痴漢相談、増える新年度半数近くは未成年
神奈川県警鉄道警察隊によると、痴漢に関する被害相談は例年、新年度が始まる4月から6月にかけて増える傾向がある。相談する被害者の半数近くは中高生ら未成年で、少数だが男性からの相談もあるという。
鉄道警察隊に寄せられた、車内や駅構内での痴漢に関する相談は、2019年に286件。20年には119件まで減少した。コロナ禍で電車利用が減ったためとみられている。