男だけど男に振られた

そして一昨日の夜わたしはたずねた
｢どうして触ってくれなくなったの？｣
｢うーん｣
また同じ笑みではぐらかす
でも今度は追いかけるしかなかった
｢お願いだから答えてください｣
情けない、わたしは泣いていた

｢いらない｣
わたしは本心から言った
｢Nくんが嫌がるなら全部いらないよ。お仕事も断る。Nくんだけといる。わたしに会えるのはNくんだけ｣

そしたらなんて言ったと思う

幸せな日々を、その匂いを、その感触を思い出してわたしは泣いた

それからの記憶はないけど
マンションのロビーで最後の別れをしたこと、そのいくつかの場面だけは覚えている
何故かNくんは立ち去ろうとしないで、
｢行きなよ｣と何故かわたしを先に帰らせようとした
｢あなたが行くんだよ｣とわたしは意固地に立ち尽くした

そして見たNくんの最後の背中は、本当にこれっきりだと、わたしに思わせる後ろ姿だった

いや、そういえば嘘みたいな余談がある
それからタクシーに乗ってふたりの住処にしてたマンションから家に帰ったんだけど、その途中で飛び出してきた猫ひいちゃったんだ
｢猫ですわ、飛び出してきて｣
っていう運転手さん
わたしは｢ああ、そうですか｣としか言えなかった
とにかくなにかがぶつかって、右側で踏んだ
踏んだ時のなにかが折れるような感触が不思議と右足に今でも残ってる

怒る人いるかもしれない
本当におこがましいけど、思っちゃったよ
｢きっとわたしの代わりになってくれたんだ｣って思った

嘘みたいだよなあこれ

本当に後悔してる
まだ愛してる気持ちが変わらない
自分がこんなに同性を愛することになるだなんて昔のわたしに言ったら信じないだろうな
あの幸せな日々が二度と戻ってこないと思うと今も涙が出る
眠れない

でもタクシーの一件で前は向けた
思い込みも心の中では真実だよな
変わらずやっていこうと思ってるよ